医療medical
デンタルケア 歯の美容と健康
予防と早期発見
歯の健康にとって最も大切なのは、早期発見・早期治療と予防対策。特にアメリカでは、歯の治療に日本よりも多額の費用が掛かるので、歯磨きの仕方などにも注意を払いたいもの。ここでは、まず、虫歯や歯周病などの歯科関連の各種の症状を取り上げ、次に毎日の歯の手入れの方法を紹介しよう。
症状と治療
虫歯と歯周病は成人の歯を失う二大主因。虫歯は歯だけの病気にとどまらないケースもあり、慢性の炎症を起こす細菌が心臓や肝臓にまで至ると重い病を引き起こすこともある。また逆のケースもあり、糖尿病などが歯周組織に悪影響を与えたりすることもある。
【虫歯の段階】
歯痛は他の病気から起こることもあるが、虫歯によることが多い。虫歯の段階によって症状は様々である。冷たい水や空気がしみる程度がC1で、これは表面のエナメル質が齲蝕されている状態である。刺すような傷みが持続するならC2で、エナメル質の下の象牙質も齲蝕されている。
更にC3、C4と進むと歯の神経まで侵される歯髄炎を引き起こし、そして最後には根だけしか残っていない状態になる。ここまで進むと虫歯だけでなく他の病気も引き起こしかねないので注意したい。歯科検診でレントゲンをとることにより、視覚では確認できない虫歯などを調べることができるので、定期的な歯のチェックとクリーニングが推奨されている。
【知覚過敏症】
冷たいものがしみる場合、虫歯の他に象牙質知覚過敏症が考えられる。歯の付け根がへこんでいたり、歯の根が長くなっていて象牙質がむき出しになっていることが原因である
【歯周病】
歯の健康管理で虫歯の他に忘れてはいけないのが歯周病である。歯周とは歯肉、顎の骨、その他、歯を取り巻く組織で、いわば歯の土台となっているものである。
幼時期のころからや思春期になって始まるものの中には母親を介して遺伝するものもある。
健康な人の歯茎は、通常、引き締まった白っぽいピンク色をしているが、歯周病になると赤から赤黒くなり出血するようになる。その後はがれてきた歯肉の間から細菌が顎の骨まで入り、骨を溶かし始める。その状態が進むと膿が出たり、歯肉が腫れて炎症を起こし、歯がグラグラしたりする。
【歯肉炎と歯槽膿漏】
歯肉からの出血は一般に歯肉炎が多い。初期にはあまり痛みはなく、赤く充血している。更に病状が進むと赤く腫れ、痛み出す。この症状が続くと辺縁性歯周炎に移行する可能性が高い。
辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)の初期の症状は、歯肉炎と同じだが、病状が進むと歯肉が赤く腫れ、押すと黄色い膿が出る。更に化膿が繰り返し起こり、歯がグラグラ動くようになる。そして歯根が見えるようになり、ついには歯が抜け落ちてしまう。
その他、歯茎からの出血には、代償性月経、紫斑病、血友病、白血病などの血液の病気によるものがある。
【歯肉腫】
歯茎の腫れの原因は歯肉炎、歯槽膿漏の他に、歯肉腫などが考えられる。歯肉腫の場合、腫れているだけで痛みはない。親知らず(知歯)の生え方の異常から歯肉が腫れて痛む知歯周囲炎、歯が生える前にその周りが腫れる歯冠周囲炎、思春期性歯肉炎、妊娠歯肉炎、歯肉線維腫症なども考えられる。
【歯のぐらつき】
歯が浮くような感じやぐらつきがある場合、風邪や高熱を伴う病気、肝臓病や糖尿病などの歯以外に原因があることもあるが、歯周病という可能性もある。
こうした歯のトラブルを予防するには、毎日正しいブラッシングを行い、定期検診の際にクリーニングを受けることである。また加えて、以下のような歯肉のマッサージも行うと血行がよくなり予防によい。
- 頬、小鼻の両側あたりを少し圧力を加えながらよくもむ。これで上歯に行く神経の機能を整える。
- 更に耳の下から下顎に沿って下唇あたりまでを軽くマッサージする。
- 下関(口を開けたときに耳のすぐ前の骨が動き、出っ張ったところで、口を閉じると凹むところ)を人さし指で左右一緒にもみ、こりょう(小鼻のすぐ両側)も同じように左右一緒に指で押す。
また既に歯槽膿漏になっている人は、小鼻の外側から上唇にかけてと、下顎の張っている角から下歯のほうへ左右一緒に指で押しながらマッサージすることも炎症を和らげるのに有効である。また、軽症の場合、親指と人さし指に清潔なガーゼをかぶせ、歯茎全体に約1分間圧迫を与えながらマッサージしたり、少々痛いかもしれないが直接歯茎を前から後ろへマッサージすると血行がよくなり炎症も治まってくる。
虫歯の予防
虫歯や歯周病などは、大抵の場合、毎日の正しい歯磨きやデンタルフロスの使用、また定期検診による早期発見と早期治療によって予防できるだろう。
【歯の磨き方】
歯ブラシは、柔らかめのものを選んだほうがよい。また毛先が外側に反ってくると洗浄効果が落ち、歯肉を傷付けるので、歯ブラシは1ヵ月が寿命と考え、取り替えたほうがよい。最近では超音波歯ブラシや電動歯ブラシもよく使われるようになった。
また、様々な薬用効果のある口内洗浄剤も多く目にする。これらを上手く使い合わせて、口内環境を最善の状態に整えて置くことが大切。
最近の研究では、虫歯などの原因となる歯垢は、24時間かけて形成されるという事が分かった。もちろん、毎食後の歯磨きは非常に有効だが、時間がない場合や小さなお子様には、毎食後のうがいで食べかすを排除しておいて、就寝前に一日の中で一番丁寧に歯磨きを行い、虫歯を防ぐようにする。歯や歯肉を傷めず歯垢を落とし、かつ歯肉へのマッサージ効果のあるローリング法(回転法)が理想的な磨き方である。このローリング法は、以下のような順で行うとよい(図1参照)。
- 歯ブラシの側面と歯面を付ける。
- 毛先が歯と歯肉の境にくるよう柄を回転させると毛先が歯間に入るので、そこで数秒間振動させる。
- 更に柄を回転させて歯間と歯面を払うようにする。
- 咬合面は、歯ブラシを当て、前後に動かす。
この方法で一ヵ所につき10回くらい行うとよい。また歯肉に毛先を直角に当て、左右に振動させるマッサージも加えると更によい。
歯面に毛先を直角に当てて左右に動かして磨く横磨きや、ブラシを垂直に動かす縦磨きは、歯や歯肉を傷めるので避けたい。
【デンタルフロス】
正しい磨き方に加えて、歯ブラシの届かない場所、主に歯と歯の間や歯肉ラインの内側などの歯垢を除去するにはデンタルフロスの使用が効果的である。フロスには、ワックスしてある物とない物があるが、効果は変わりない。
- フロスを45センチメートルくらいに切り、大部分を片方の中指、残りをもう片方の中指に巻き付ける。
- 歯の間にフロスを静かに差し込む。
- フロスを歯と歯茎の間で静かに上下にスライドさせる。
- 残りの歯もフロスの清潔なところを使って行う。
歯の美容
白く輝く美しい歯の魅力は、アメリカでも日本でも関心が高く、いろいろな殺菌薬、歯垢形成を抑える薬物の入った洗口剤、練り歯磨き粉などが出回っており、中には効果の高いものもある。専門的には歯の美容とは、ただ単に白く見せたり、欠点のある個所だけを治すのではなく、その人の顔に合うように歯を入れたり、白くしたり、矯正したりして調和のとれた口元を作り出すというもので、これを審美歯科治療という。
【クリーニング(Cleaning)】
毎日のブラッシングでは取れないタバコのヤニや汚れをクリーニングによって取り除くことができる。研磨剤の入っているものも市販されているが、歯を痛めるので使用しないほうがよい。
【ホワイトニング(Whitening)】
コーヒーや食べ物、または年齢によって起こる歯の表面の染みをブリーチ剤によって取り除き、明るい色にすることをホワイトニングという。歯に障害を起こすことはまれだが、仕上がりの色に限度があるので、希望通りの色になるとは限らない。一般的に、黄色がかった歯は白くなりやすいが、茶色がかった歯の場合は効き目が弱いこともある。グレーがかった歯にはあまり効果がないこともあるので、アメリカン・デンタル・アソシエーションでは、まず歯科医に相談することを勧めている。歯科医による方法以外に自宅でできる方法もあるが、これもまずは歯科医に相談しよう。これは比較的費用が安く済み、歯も削る必要がない。効果の持続性には個人差がある。
【ボンディング(Bonding)】
ボンディングとはプラスティック製の材料を使用し、欠損したり変色した歯を修復するために行う方法である。費用は、比較的安く一回の治療で済む。
【ベニアリング(Veneering)】
個人の歯型に合わせて作られた薄いカバーを表面のエナメルを削った歯に接着剤で付着させる方法をベニアリングという。治療後は、コーヒーや赤ワインなど染みの着き安い食べ物を避けるよう注意する歯科医もいる。たまに欠けたりなどの問題が起こることもあるが、個人の歯に合わせるのできれいに仕上がる。前述の二つに比べると時間と費用が掛かる。
【クラウン(Crown)】
前述のベニアリングは、表面に付けるものだが、クラウンは、歯を削ってセラミックをかぶせてしまう方法である。歯の形やサイズそのものを修正するので、見栄えがよくなるだけでなく、歯の補強の役割も果たす。
【歯科矯正(Orthodontics)】
歯科矯正により歯列と噛み合わせを正しくし、ブラッシングしやすくすれば、歯の健康を維持しやすくなる。治療に掛かる時間と費用は個人によって異なるが、一般的には子供より大人のほうが長く掛かる。また、何本か歯を抜く必要もある。矯正治療方法にも個人差があり、例えば上顎と下顎のサイズが極端に違う場合など、顎骨の形成が必要となってくる。特に年齢制限はないが、通常子供の場合、8歳から14歳の間に始めることが多いようである。現在では、4歳位から9歳位までの子供の成長力を利用し、リテイナーという取り外しのきく矯正器具を使った床矯正という方法もある。小さい頃から虫歯だけでなく、歯並びにも気を付けて、歯科医に相談されることも必要。また、歯周病にかかっている人は矯正が無理な場合もある。
また最近では、唇側矯正(従来のような歯の表面に装置を付ける方法)だけでなく、治療器具が目立たないセラミック装置や舌側矯正などの技術も進歩している。セラミックは、半透明なので従来の金属の装置と比べると目立たず、効果も変わらないので、成人になってからの矯正ではよく使われる。舌側矯正は、歯の裏側に装置を取り付けるので、治療中ということがまったく分からず、このことが成人矯正の増加につながっている。
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上村 富男 Dr.(監修)
- 所属
- 上村総合歯科
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1989年 Northwestern 歯科大学院を卒業。 数々の学会に属し、最新の知識と技術を常に提供できるように日々努めています。一般の歯科治療だけでなく、歯周病や口腔外科(困難な抜歯、インプラントなど)、神経治療、矯正や顎関節症の治療など専門分野も取得し、広い視野で総合的に口の中の状態を判断し、患者さんの立場に立った治療を提供する事を心がけています。 また、一人ひとりに最適で最高の治療を施す事を旨とし、まず患者さんの安心感や信頼を得るため、医者にとって日頃怠りがちな“聞く耳“を持つ事が大事と心がけています。