医療medical

アメリカの出産事情


産科医学は1960年中期から現在まで、アメリカを中心として急速に進歩し、「母子ともに安全かつ健康」という産科医学の理想にかなり近づいてきている。

60年中期に超音波診断の産科検診が適用され、60年後半から70年前半に胎児モニターの導入がされた。さらに、羊水検査の中で行う胎児染色体検査による妊娠初期の奇形予測、妊娠後期に胎児の肺成長を調べる羊水検査、子宮内における胎児の健康状態を調べるストレステストおよびノンストレステスト、胎児スコアーシステム、また、超音波診断の技術進歩に伴い、デジタルの映像や3D(立体)のイメージが開発され、奇形診断が12週間前後でできるようになった。このような技術、および研究の進歩は、母子の健康と安全性に大きく貢献し、一歩一歩確立されてきたといえる。

慣れない異国では、何であれ不安感がつきものだが、特に妊娠、出産は、それぞれの国や文化によって、接し方が違ってくるので、不安も大きい。そのような人にとって、これらの最新技術がアメリカで開発・完成されたということは、慣れない異国での出産に対する不安感を大いに和らげることになるだろう。

妊 娠

【妊娠の兆候】

  • 生理が遅れている。
  • だるい、眠いなどのけん怠感がある。
  • 乳房が生理前のように張る、特にこの状態が異常に長く続く。
  • つわりが始まる(食欲不振、吐き気など)。
  • 最終生理の状態が普通と違っているか、または不正出血が続く。
  • 原因不明の下腹部痛が続く。特に不正出血、または生理異常と共存する場合などの症状が現れた時は、妊娠の可能性を考える必要がある。

【妊娠の確認】

妊娠を確認するには、次の二つの方法がある。

  1. 自分でできる方法
    基礎体温を測って、高温が2週間以上続くかどうかを見る。または、薬局で自分でできる妊娠反応(ホームテスト)を購入して確かめる。
  2. 医師に予約を取って、診断してもらう方法
    血液検査、尿検査による妊娠反応、および膣式超音波診断法。

【産婦人科への予約】

妊娠といっても、必ずしも正常妊娠であるとは限らないので、妊娠の可能性がある時は、できるだけ早く産婦人科へ予約を取ることが肝心である。つまり子宮外妊娠、胎児死亡に至る稽留流産、胞状奇胎などであることも考えられ、このような場合はできるだけ早く診断をして、適切な治療をする必要がある。

【妊娠中の注意点】

  1. 食事
    妊娠約6〜16週間くらいまではつわりがあるため、食欲不振、吐き気などの症状を訴える人が多い。そういう時は無理をせず、胃液を中和するために消化のよいものや、食べられるものを常に少量ずつ回数を分けて頻繁に食べ、胃を空にしないことが重要である。その時期には、胎児は母体から効率よく十分な栄養を取ることができるので、胎児の栄養不足を心配する必要はない。一方妊娠中期では、胎児・母体双方が必要とする栄養量が急速に増えるので、医師の指示に従って、婦人用のビタミンを服用し、動物性のたんぱく質やミルクの摂取量を意識的に増やす必要がある。
  2. 身体的活動
    妊娠は病気ではないので、非妊娠時と同じ活動量を保ってもよいという人が一部にいるが、大部分の医学的事実、および妊娠生理学的観察は、妊娠中、特に妊娠初期と妊娠後期の安静が、安全な妊娠出産のために役立つことを十分に示している。
  3. 仕事について
    妊娠初期はつわりや立ちくらみ、また流産などの問題があるため、急に倒れたり、突然気分が悪くなって休まなければならないようなことが起きる。そのため、妊娠と分かったらできるだけ早く職場上司にそのことを報告しておくことが大事である。そうすれば、急に休憩を取ることが可能であるだけでなく、妊娠に悪影響を及ぼす仕事などから、一時的に職種を変更してもらうこともできる。また職場側にとっても、妊娠初期の時点で報告があれば、緊急時のために予備人員をあらかじめ用意できるという利点がある。
  4. 薬について
    妊娠中は、医師が必要と判断した薬以外は、一切使用しないのが原則である。主に奇形が起こりやすいのは妊娠初期であるが、薬の種類によっては妊娠中期、更には後期まで胎児に悪影響を及ぼすことがある。これは注射のみならず、皮膚疾患に対する塗薬や漢方薬なども含まれ、一部では頭痛薬の「タイレノール」などは安全とされているが、詳細は担当の産婦人科医と相談するのが賢明であろう。
  5. 旅行について
    妊娠中の旅行は十分な注意が必要である。時期や場所については医師に相談。目的地を選べる場合、伝染病や寄生虫の多い土地は避けることが肝心である。

【医師への緊急連絡が必要な場合】

以下のような症状がある場合は、緊急に医師と連絡を取る必要がある。

  1. 出血。
  2. 異常な下腹部痛、腰痛。
  3. 子宮がいつもより頻繁に張る、特に生理痛に似た痛みを伴う。
  4. 妊娠24週間以降で、1日中胎動を感じない。
  5. 消化器系(吐き気、下痢など)、泌尿器系(頻尿、排尿器痛など)の症状が強い、もしくはこれらの症状が24時間以上続く。
  6. 破水した時。
  7. 風邪の症状がないのに38度(摂氏)以上の熱がある、特に24時間以上続く。
  8. ひどい立ちくらみが続く。
  9. ひどい頭痛が続く。

陣痛

【陣痛が起こった時の対応】

医師への連絡が必要な場合

  1. 破水した時。
  2. 生理の多い時以上に出血した場合(おしるし程度の時は連絡の必要はないが、医師に予告を与える意味では一報を入れてもよい)。
  3. 陣痛(規則的に繰り返す子宮の張りとそれに伴う痛み)が起こった時(日本人は、初産婦でも経験産婦でも陣痛が約10分おきに起きて、痛みが20〜30秒間続くようになったら、すぐ医師に連絡を取ったほうが安全である)。

医師への連絡方法

個人またはグループ開業の医師・助産師の場合、医師・助産師のオフィスまたは緊急連絡先に電話で陣痛が起こったことを伝え、自分の居場所とエリアコードを含む電話番号を告げて、担当医からの緊急連絡を要請する。15分以上待っても連絡が来ない場合は、同じことを繰り返し行い、再度自分の電話番号を相手に伝えることを忘れないように。

クリニックの患者である場合は、個々のクリニックの指示通りに所属病院の分娩室かEmergency Roomに行くことができる。

【病院】

  1. 病院見学
    産前検査の時にあらかじめ、陣痛室・分娩室を見ておくとよい。また、必ずしも必要なことではないが、時間のある時に、病院の近所のレストランや駐車場の空いている時間帯を調べておくと便利。
  2. 陣痛が起こって病院に行く時
    多くの病院の正面玄関は、24時間開いているので、ガードマンに事情を告げ、陣痛・分娩室に直行する。通常、患者がそこに着くころには、医師のほうから分娩室のレジデントや看護師に電話連絡を行っているので、心配する必要はない。陣痛室では看護師が着替えを手伝い、レジデントが診察を始める。更に医師の指示に従い、胎児心音モニターの取り付け、静脈点滴、浣腸などが行われる。通常、担当医は病院のレジデントと連絡を取りながら、陣痛がある程度強くなってから病院に来るのが普通である。

【病院に持参する物】

病院は一応完全看護制度なので、入院中に必要なものはすべてそろっているが、自分の身の回りの物、寝間着、スリッパ、化粧用品、本などを持ってきてもよい。赤ちゃん用品については、退院する時に着用させる洋服以外は必要ではない。また、陣痛が長引いた時のために、夫または付添人の飲み物、食事などを用意しておくと便利である。

出産

【陣痛が起こったら】

陣痛とは、周期的な痛みを伴う子宮の収縮であるが、普通は不規則に15〜30分おきに繰り返し、次第に規則的になってお産の直前には2〜3分おきになる。その痛みも次第に強くなり、出産までに平均初産婦で12時間、経産婦で7〜8時間程度かかる。自然に陣痛が起こるのを待ったほうが母子のために安全であり、またお産自体も楽であるが、高血圧、妊娠中毒症などの合併症がある場合、早期破水やその他様々な理由から、陣痛を人工的に誘導しなければならない場合もある。この場合は、医師の指示に従うのが安全であるが、疑問点がある時はちゅうちょせずに、医師に質問することが肝心である。また日本人は体質のせいで、アメリカ人に比べて微弱陣痛が多い上、陣痛が強くなると急に子宮が開いて、短時間でお産する人がいるので、少し早めに入院するほうが安全である。

【分娩方法】

分娩方法は自然分娩、吸引分娩、鉗子分娩、帝王切開などで、日本もアメリカも大差はない。アメリカでは吸引分娩、鉗子分娩の頻度が下がり、帝王切開の比率が上がってきているが、最近の帝王切開は技術も進み、赤ちゃんへの安全性の面からもほとんど自然分娩と変わらないので、どの方法がよいかはケースバイケースで、信頼できる産婦人科医の判断に任せるのが一番である。

最近では、以前に帝王切開でお産をした妊婦が、次の分娩で再び帝王切開を繰り返すべきかどうかの議論がなされているが、医師によってそれぞれ意見が異なるため、これは担当医と相談の上で決定するのがよいだろう。

【陣痛の痛みへの対処法】

  1. 自然分娩
    これは、陣痛が自然の生理的現象であるという考えから、痛みを我慢して特別な方法や薬などの使用を避ける方法であるが、最近では減少傾向にある。
  2. ラマーズ法、およびその類似方法
    一つのことに強く意識を集中させると、その他の痛みをあまり感じないという現象を利用したのがラマーズ法である。これらを有効に使うためには、ラマーズクラスなどに参加して呼吸法などを習う必要がある。また、この方法は初期の弱い陣痛には非常に役立ち、これですべての痛みに耐え得ることもあるが、後期の陣痛では痛みに対する十分な緩和効果がなくなったり、人によっては陣痛半ばでそれ以上続けられなくなったりして、他の方法に切り替えざるを得ない状況になることもある。ラマーズ法の利点は、薬の影響を一切胎児に与えずに済むことだが、一方で神経質な人や臆病な人は緊張し過ぎのため、かえって陣痛の進行を妨げる原因にもなりかねない。
  3. 鎮痛剤・鎮静剤・睡眠薬などを使用する方法
    陣痛初期のうちにこれらの薬品を使うと陣痛を弱くしたり、不規則にしたりすることがあるので、通常これらは陣痛がある程度以上強くなってから使用するものである。薬の量を調整することによって、かなりの痛みを和らげることができるが、これらの薬はすべて胎盤を通して胎児の元に届くので、胎児の呼吸中枢を抑制することがあり、安全性を考えると分娩直前には多量の薬は使えず、痛み止め効果が十分でない場合もあり得る。
  4. 硬膜外麻酔
    これは今日、陣痛の痛みを和らげるために最もよいとされている方法である。以前は多量の麻酔薬を用いたため、陣痛第2期において妊婦が腹圧を十分に利用することができなくなり、鉗子(かんし)分娩になる頻度が高くなるともいわれていたが、現在の使用方法においては陣痛を弱めることもなく、時には硬くて開きにくい子宮頸管を、軟らかくして開きやすくするなどの効果もあり、かえって陣痛所要時間を短くすることが判明した。脊椎麻酔などと違って非常に安全な麻酔ではあるが、使用する場合は、産婦人科医や麻酔医の説明を納得がいくまで聞くことが肝心である。
  5. その他の方法
    脊椎麻酔や吸咽麻酔などは過去によく使用されたが、現在ではほとんど硬膜外麻酔に取って代わられ、アメリカでこれらを使用しているところは非常に少なくなってきている。

【分娩の痛みへの対処法】

  1. 自然分娩
    陣痛への対処法と同様に、原則として自然分娩とは、特別な方法や薬を使用せずに分娩する方法であるが、その他ラマーズ法や鎮痛・鎮静剤を注射する方法、硬膜外麻酔、脊椎麻酔などを使用して出産する方法もある。
  2. 帝王切開
    現在では、硬膜外麻酔が一番安全な方法として、多くの場合この麻酔が使用される。これに比べて全身麻酔は安全性が少し低いため、緊急の帝王切開の場合のみに限り使用されている。また脊椎麻酔は、安全性の問題や術後の頭痛の問題から、最近では使用されることが少なくなってきていたが、硬膜外麻酔に比べると効果が表れるまでの時間が短いため、全身麻酔に代わる方法として緊急時の帝王切開の場合、非常に細い特殊注射針を用いて使用するという方法が一部の麻酔医の間で行われるようになってきた。

産後

【産後のケア】

出産後、子宮は急激な変化とともに小さくなっていくが、元の子宮に戻るには4〜6週間かかる。その間に出る分泌物を悪露といい、赤色から茶色、そしてクリーム色と日増しに色も薄くなり量も減っていく。

日本では、産後安静を十分取ることが常識となっているが、アメリカでは安静を強制せず、産婦の体調に合わせてできるだけ早く通常の活動に戻るように指示している。そのほうが産後の回復も早く、体にもよいといわれている。 

また、会陰切開のアフターケアには半身浴/座浴(Sitz Bath)がよいとされている。この器具は通常病院でもらう。この座浴の目的は、会陰部の血行をよくし治癒を促すためで、熱い湯を満たした座浴器をトイレに置き、会陰部を浸す。

1日に2〜3回繰り返す。通常、会陰切開や後陣痛の痛みには、タイレノールやコディンなどの痛み止めをオーダーできるが、その都度、看護師に頼まなければもらえない。帝王切開の場合でも、活動を始めるのは日本よりアメリカのほうがずっと早く、手術後第一日目からベッドを降りて、歩かされることもある。

これがつらいと思う人もいるようだが、最近では母乳を赤ちゃんに与えても安全な痛み止めの経口薬や、自分でコントロールできる点滴などがあるので、このような薬を利用して、どんどん活動していくとよい。開腹手術の後、早く活動を始めることは、手術後の合併症を防ぐ一つの方法である。一方、帝王切開の傷跡は数日するとかなり治ったように見えるが、実際にはまだその部分は弱いので、できるだけ腹筋に負担をかけないように、また手などで触らないようにすること。以前は帝王切開の後、毎日消毒してガーゼで覆っていたが、最近では傷跡への細菌感染率を下げるため、第一日目からガーゼを取って空気にさらすようになっている。

また帝王切開の場合でも、自然分娩の時と同じように、産後すぐに母乳を与えることが可能である。

また膀胱を満たさないようにすることも重要だ。分娩の際の麻酔で尿意を催さないこともあるので、6時間くらいしたら、排尿を試みることも肝心だ。更に産後の便秘は、子宮の回復にも影響するので、繊維や水分を十分取り便秘は避けるようにしたい。丁字帯は、湿らせたコットンを会陰部の当たる部分に置いて使用するが、これは傷の痛み、痒みを癒す目的で使用される。

【新生児の世話】

 日本と違いアメリカでは、産婦人科が新生児の世話を担当するということは一切なく、産後は小児科の専門医と看護師がその新生児の担当となる。産婦の世話は産婦人科の看護師、新生児の世話は小児科の看護師がするというのが一般的であるが、最近ではこの不便さを取り除くために、一部の病院で、数人の看護師が母子両方の世話をするという試みも行われている。

また以前は授乳時以外、新生児を新生児室に入れていたが、最近では、新生児を一日中そばに置いておくことも可能となった。

授乳は、生まれてすぐにできるが、分娩時に麻酔を使用した場合、新生児が眠ってしまってよく吸わないことがある。しかし練習のつもりで根気よく続けることが肝心。この練習で乳首が刺激され、ホルモンの分泌を促し、母体の回復を助け、母乳を出やすくするからだ。

【退院】

アメリカでは自然分娩で出産の翌々日、帝王切開で手術後4日目ぐらいの退院が一般的である。しかし退院後の新生児の安全について、産後2〜3日では100%保証できないこともあり、たまに新生児を残して、母親のみが退院しなければならないこともある。これは多くの場合、州や病院と保険会社が結んだ規定によって、以前のように、母親の退院を新生児の退院日まで延長することができなくなったためである。

この早期退院による現実的障害は、産後に病院で新生児の扱い方を学ぶ期間が非常に短くなったことである。特に最近では、母親となる人自身に兄弟・姉妹が少ないため、お産前に育児の経験のある人が少なくなっており、出産後の育児に戸惑いを覚える人も多いようである。そのため、出産後から退院までは、積極的に看護師から新生児の扱い方を習うよう心掛けることが大切である。

また、産前のラマーズクラスや妊婦教室に参加して、呼吸法を習うと同時に育児講習を受けるのもよい。一部のラマーズクラスでは、産後に受けられるベビーケア・クラスや授乳方法の教室などを設けているところもある。

出生届の出し方と注意

子供を出産した場合、その子供が国籍を持つ国に出生届を届け出る義務が生じる。日本に住んでいる場合は、国内の区役所、市役所などを通して出生届を届け出るだけで済むが、アメリカに居住する場合は、日本領事館に届け出ると同時に、アメリカの保健衛生局(Department of Health)にも届け出なければならない。一般に届け出を出すのは、出産に立ち会った医師であるが、その書類作成に当たって、新生児の父母の協力も必要である。

【アメリカの出生届】

出産当日もしくは翌日に出生届の係員が、病室まで出生届の下書きフォーム(父親の姓名、母親の結婚前の姓名など出生届に必要な事項を書き込む用紙)を届けてくれるので、それに記入後、係員か産室病棟看護師室の受付に提出すれば、後は病院が自動的に届け出を出してくれるシステムとなっている。通常、出生後6〜8週間以内に保健衛生局から正式な出生証明書が送付される。アメリカの出生証明書は日本の戸籍謄本に相当し、ビザ、パスポート取得時のみならず、その他いろいろな場合に、本人であることを証明するIDとして使われるので大切に保管しておく必要がある。

【日本の出生届】

出生後3ヵ月以内に、日本領事館から出生届書を取り寄せ、必要事項を記入した後、領事館の戸籍係に届け出なければならない。日本語で届け出る場合は、日本語の出生届の左ページを新生児の父親か母親が記入、署名捺印し、右ページを出産に立ち会った医師が記入、署名捺
印する。これは郵送では受け付け
られないので、新生児の父親か母親が、直接領事館に届けなければならない。3ヶ月の期限を過ぎると受け付けてもらえないので、注意が必要。

また、立ち会った医師が日本語を解さない場合は、英文出生証明書に英文で記入し、抄訳文を作成して日本語の出生証明書に添えて届け出る。

【出生証明書の記載に間違いがあった場合】

保健衛生局から送付された出生証明書の記載に間違い(名前のスペルなどのミス)があった時は、出産した病院の出生証明書係に連絡を取り、指示を仰ぐ必要がある。

多くの場合は、保健衛生局に直接出向き、訂正用の書類に記入し、公証人(Notary Public)のサインを得て提出するか、病院の出生証明書係に手渡すかのどちらかである。ただし、それでも訂正に問題がある場合は、出産に立ち会った医師に相談するのが一番よい方法である。

病院・医師の選択

医学の進歩した今日では、出産・分娩の安全性も非常に高まっているので、遠くの大病院よりも、家から近い親切なコミュニティー病院で出産したいと考える人も多くいるようである。しかし現在でも、高度の妊娠中毒症や胎盤早期剥離で出血が止まらなくなったり、その他いろいろな内科・外科疾患を併発した妊娠の場合(高度の心臓病患者がお産する場合など)には、産婦人科だけではなく、他の専門分野の医師との共同治療が必要となることがある。特に出産に伴う緊急事態の場合は、事が起こってから転院する時間がないので、最初から設備の整った各専門医の多い病院に入院するほうが安全である。しかも陣痛は、初産で12〜13時間、経産で7〜8時間かかるので、病院の選択において特に自宅からの距離にこだわる必要はない。

  • 大学病院・大学の関連病院
    この種類の病院は一般に非営利団体で、通常政府や州、市、教会、慈善団体などによって経営されている。この種の病院は政府、財団、企業などからの助成金が多く、レジデント教育にもかかわっているので、医学的レベルが高いのが普通である。
    またこれらの病院は、個人患者対象とクリニックとの2種類に分けられる。クリニックでは主に生活保護を受けている患者を、インターンやレジデントの医者が診察するので、これらの病院に個人患者として入院するためには、そこに入院資格を持っている個人の産婦人科医の患者である必要がある。この場合、その担当の産婦人科医が責任を持って診察、手術のすべてを行うこととなる。
  • 州立・市立病院
    昨今の経済事情により、運営自体が逼迫化していたり、閉鎖に追い込まれることも多い。事前に評判などの情報収集をすることが重要。
  • コミュニティー病院
    それぞれのコミュニティーの人口構成によっても違うが、大学病院を小型化した病院と考えればよいが、設備面などでは大学病院に少し劣るところがある。しかし、看護師やその他のスタッフなどは一般的に親切である。
  • バースィング・センター(Birthing Center)
    これは、助産師が経営(または医師が助産師を雇って経営)しているのが普通である。家庭的な雰囲気で出産を迎えることが出来る。全米各地にあり、American Association of Birth Centers(www.birthcen
    ters.org)やAmerican Pregnancy Association(www.https://american pregnancy.org)のサイトで場所を確認できる。

【医師の選び方】

手術上手なのか、人格がよいのか、親切なのかなど種々の選択基準がある。一般には、診断が正確で正しい治療を的確に行ってくれる医師を選びたいものである。このような医師を探すのは容易なことではないが、内科医や家庭医は種々の患者を診断し、いろいろな科の専門医を知っているのが普通なので、彼等
を通して紹介してもらうこともできる。

また、ニューヨークやロサンゼルスといった日本人人口の多い地域に限られてしまうが、日本語を理解する医師や日本人の患者を多く診察した経験のある医師を選択することは、患者にとって大きな利点がある。かなり英語に堪能な患者でも、医学用語は理解しにくいものである上、苦しむ患者が自分の症状を的確に英語で説明するのは困難である。更に、医師と患者のコミュニケーションがうまく取れない場合、それが誤診を招く可能性もある。また医師が、日本人は新生児黄疸の発生率が高いこと、微弱陣痛が多いこと、鉗子分娩の際に裂傷が起こりやすいことなど、アメリカ人との体質の違いを知っている場合、未然に事故を防ぐことができる。

出産費用

【母親に関する費用】

これが一般に出産費用といわれるもので、日本では出産した病院から、すべての費用を記した請求書が1通来るだけであるが、通常アメリカでは、以下に挙げる3〜5種類の請求書が送付される。

  1. 産婦人科医の費用
    一括払いか分割払いか、産前払いか産後払いかは各医師によってまちまちであるが、一部のアメリカ人医師は、出産数ヵ月前に全額を納めるシステムを採っていることもあるので注意が必要である。
  2. 病院の費用
    すべての病院において、入院前の前納金納入が原則となっている。実際には、入院当日までにこの前納金を支払えばよいのだが、これが納入されていない場合は、退院させてもらえないので注意が必要である。
  3. 麻酔医の費用
    硬膜外麻酔、全身麻酔などを使った場合は、麻酔医から請求書が送付される。
  4. 検査室の費用
    産前検診の血液、尿、その他の検査料。また個人の医師から検査会社に検査を依頼した分の検査料は、医師の費用には含まれず、直接その検査会社に支払わなければならない。
  5. 特殊検査の費用
    前記の他に羊水検査、放射線医師による超音波検査を受けた場合は、病院・医師・検査室から別々に請求書が送付される。

【新生児に関する費用】

  1. 小児科医の費用
    新生児の検診は小児科医の担当となるため、小児科医からの請求となる。
  2. 病院の費用
    新生児室からの請求書。
  3. その他
    新生児が未熟児、または集中治療が必要な場合に前記の費用とは別に、新生児専門医や集中治療室などからの請求書が送付される。

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