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子供のSTEM教育における「3Dプリンター」活用術


 皆さん、小さい頃に絵を描いたり塗り絵をして遊んだ経験をお持ちだと思うのですが、この実際に手を動かし目の前に形ができ上がるプロセスの積み重ねは、子供の教育上非常に大切だということが知られています。近年のSTEM人材育成ブームで、小中学生の頃からプログラミング教育をさせる親が増えているようですが、コーディングを論理的にまとめる作業はなかなか取っ付きにくく、そこで躓いてしまうとコンピューターやプログラミングへの苦手意識に変わってしまうことも多々あります。もちろん、プログラミングの世界は大変面白いのですが、まずはテクノロジーの世界に興味を持ってもらうきっかけとして、〝3Dプリンター〟の活用が非常に有効だということをお伝えしたいと思います。

 小さな箱の中でマテリアルを溶かし、それが積み上がって様々な形状を紡ぎ出す3Dプリンター。コンピューターで絵を描くだけでもテクノロジーに触れる第一歩となるのですが、さらに一歩踏み込んだ3Dモデリングから得られることは大きいです。例えば、絵を描いてそれを回転させていくと立体になります。円を回せば球体になるし、四角を回せば立方体になる。だんだん慣れてくれば、曲線や曲面からどのような形ができるのかもイメージできますので、そこで、空間認識力が自然と身に付くのです。

 自分で設計図を描ければ、自由自在に好きなモノを作り出せますし、インターネット上には無料のデータがたくさん提供されています。それをダウンロードして利用することが簡単にできるのが3Dプリンターの優れた点の一つです。複雑な形状や著作権のある設計図は有料の場合もありますが、無料データだけでも十分に学び、楽しめます。僕は、娘と一緒にリンカーン大統領やコーギー犬のデータをダウンロードしてミニチュア像を作ったりもしました。

 使っていくうちに、今度は身の回りのモノを自分で作ってみたくなります。「こんなものがあったら便利かな」、「もっとこういった形状だと使いやすいな」とアイデアを蓄積させる。例えば、たくさんの延長コードを綺麗にまとめるリング、帽子や傘をかけておく壁掛けフック、ペットのネームタグなどもいいですね。こうしたモノも、自分でデザインして3Dプリンターで描き出せれば、それはとてもワクワクするのではないでしょうか。

 そして、自分の作ったモノを使っていくうちに、強度が足りなくて壊れてしまったり、最初のデザインへの不満や改善点などに気づき始めるでしょう。この、「アイデア→デザイン→設計→プリント(プロトタイプ作成)」という一連の流れができれば、その後は課題を見つけるセンスが身に付き、モノづくりに対する理系的な考え方をするようになります。どうしたら、そのプロトタイプを発展・進化させられるのか。何回でも、何個でもプリントアウトできるのも、3Dプリンターの魅力でしょう。

 また、強度について考えだすと、今度は材料の負荷の限界、材料強度と応力の関係性なども感覚的に身に付きます。これは、エンジニアリングにはとても大切な概念で、見た目のデザインはカッコいいけれど実用的ではなかったり、実用的だけども壊れやすいなど、課題がどんどんと見えてきます。こうしたトライ&エラーを繰り返し、試行錯誤を重ねて良いものを世に出したいと考えていくことが、エンジニアとしての最初の一歩なのです。

 最近では、300ドルほどで性能的にも十分な3Dプリンターが入手できますので、コンピューターを買う際に、インクジェットのプリンターと一緒に3Dプリンターも追加購入すれば、上記のようなメリットを享受できます。数年前まではコンピューターとの接続が大変だったり、規格がバラバラでデータ変換が必要だったりと手間がかかりましたが、最近のプロダクトは本当に使いやすく、導入障壁はかなり低いはずです。あとはフィラメントという細いプラスチックコードを2、3個用意し、作りたいモノの設計図をダウンロードするだけで準備完了です。

 まずはモノづくりに対する喜びを感じ、創造力を養っていく──ここが入り口です。もちろんその先にプログラミングなどの領域に興味を持つ可能性も高くなります。何よりも、コロナ禍で医療従事者向けフェイスシールドの寄附が流行ったように、自分だけではなく、家族や友人など他の誰かのために自分のデザインを贈る喜びも感じることができます。テクノロジーで自分のアイデアを形にし、それが評価され喜んでもらえる。この成功体験は、もっとテクノロジーのことを知りたいと思う動機としてはかなり大きいのではないでしょうか。3Dプリンターに触れる──小さな一歩なのかもしれませんが、こうしたことが日本の子供たちのITリテラシー向上にも繋がるのはずだと、僕は本気で信じています。

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中村正人

中村正人
所属
ニューヨーク市立大学CUNY工科校
肩書
機械工学工業デザイン学科デパートメント 学科長兼アソシエイトプロフェッサー
住所
300 Jay St, Brooklyn, NY 11201
TEL
718-260-5000
URL
http://masatonakamura.tech/2019/03/24/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB/

北海道大学大学院にて工学研究科・材料工学を専攻。システムエンジニアとして東京で勤務後、2001年にニューヨーク州コロンビア大学大学院・地球環境工学科の博士号を取得。2011年よりニューヨーク市立大学工科校のアシスタント・プロフェッサーとなる。未来のテック人材を育てる「テックカフェ」を主催する。